昭和8年頃の古関夫妻と長女・雅子(写真提供:古関裕而の長男・古関正裕さん)
2023年11月5日、59年ぶりに関西勢同士の戦いで最終戦までもつれた日本シリーズは、阪神が7-1でオリックスを退け、38年ぶり2度目の日本一に輝きました。1985年当時は27歳で選手会長を務めていた岡田監督が宙に舞い、球場や大阪の街に「六甲おろし」が鳴り響きました。この「六甲おろし」は、「栄冠は君に輝く」や、岡田監督の出身大学・早稲田の応援歌「紺碧の空」を産んだ作曲家・古関裕而が昭和11年に作っています。「六甲おろし」誕生秘話の記事を再配信します。

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NHK連続テレビ小説『エール』で、窪田正孝さんが演じる主人公・古山裕一のモデルは、名作曲家・古関裕而(こせきゆうじ)だ。今週月曜日には「六甲おろし」こと、「大阪タイガースの歌」が取り上げられた。遺族にも取材して古関の評伝を書いた刑部芳則さん(日本大学准教授)によると、古関裕而はタイガースのライバル、読売巨人軍の歌も作曲していたという。

※本稿は、評伝『古関裕而 流行作曲家と激動の昭和』(刑部芳則・著/中公新書)の一部を、再編集したものです

「必ずコロムビアに恩返しします」

コロンビアと月給200円の専属契約を結んでから、昭和10年の「船頭可愛いや」の大ヒットが出るまで、売れる流行曲を作曲できなかった古関裕而は、一度、解雇されそうになったことがある。

昭和8年、前年にポリドールから「忘られぬ花」(作詞・西岡水朗)を出した江口夜詩(えぐち・よし)が、コロムビアの新たな専属作曲家として加わった。コロムビアの文芸部長和田竜雄は、江口を「仕事のうえではライバル、人間としては親友ということでやってくれ」と、作曲家たちに紹介した。

『古関裕而 流行作曲家と激動の昭和』(刑部芳則・著/中公新書)※電子版もあり

江口が入社したとき、古関は専属の再契約の時期にあたっていた。ところが、コロムビアは古関と再契約せず、解雇する方針を取ろうとした。デビューから2年間、ヒット曲を出せない古関を捨て、他社でヒット曲を生んだ江口に期待したのである。

この噂を耳にした古賀政男(野田洋次郎さん演じる木枯正人のモデル)は憤慨し、和田に「芸術家にはスランプはつきものである」、「それを理由に、契約を左右されたのでは、作曲家は全く立つ瀬がない」と抗議している。

また古関夫婦は、米山正の自宅を訪れ、長女雅子が生まれたばかりであり、再契約してもらえないと路頭に迷うことを説明した。そして金子(二階堂ふみさん演じる古山音のモデル)は、「ヒットを必ず生むから」、「必ずコロムビアに恩返しします」と懇願している。金子の熱意が伝わり契約終了は免れたが、給料は半額に減らされた。