●認知症の進行過程

認知症は、上図のように長い時間をかけて段階的に進行します。自覚症状がない「プレクリニカル認知症」、同年代の人よりもの忘れが目立つが、日常生活に支障のない「軽度認知障害」、そして脳細胞へのダメージが大きく日常生活に支障が出ている「認知症」――。一般的には、脳にゴミが溜まり始めたプレクリニカル認知症から約15~20年かけてアルツハイマー病に進むと考えられています。

10年ほど前までは、“認知症予備軍”といわれる軽度認知障害の段階での治療・予防が期待されていました。そこで、軽度認知障害の人の脳に溜まったアミロイドβを取り除く薬などの研究が進められましたが、残念ながら認知機能の改善は見られず、病気の進行もさほど遅らせることができなかったのです。

つまり現状では、軽度認知障害になってから対策を講じても遅いのではないかと考えられています。より早い段階のプレクリニカル認知症、あるいは脳のゴミが溜まっていない40代、50代での予防が理想的なタイミングなのです。

 

認知症リスクが上昇する生活習慣病は

ここからは、認知症になりやすい人の特徴を見ていきましょう。認知症の要因には加齢や遺伝もありますが、その人の生活習慣が大きく影響することがわかっています。

認知症リスクが高い病気は、高血圧糖尿病脂質異常症などの生活習慣病です。生活習慣病は全身にさまざまな不調を起こすだけでなく、血管を傷つけて血液の流れを悪くします。すると「脳のゴミ」を排出する機能が落ちて、脳の中にどんどん蓄積してしまう危険性があるのです。

特に、中年期に悪玉コレステロール値(LDL)が高く、善玉コレステロール値(HDL)が低い人は、アルツハイマー病のリスクが約2倍になるという研究結果が出ています。また糖尿病や高血圧の場合、アルツハイマー病だけでなく、脳の血管が詰まったり破れたりすることで発症する脳血管性認知症のリスクが高まることも忘れてはいけません。

そして多くの現代人の悩みともいえるのが、睡眠不足。睡眠が十分にとれない睡眠時無呼吸症候群は、認知症リスクが1.85倍になるという報告が。アミロイドβは起きている間に溜まり、睡眠中に排出されます。良質な睡眠をとるとアミロイドβは減少しますが、徹夜をすると減少しません。つまり慢性的に睡眠不足の人は脳のゴミが溜まりやすくなり、認知症のリスクも高まると考えられるのです。