運動は、現在最も科学的根拠のある認知症の予防法。特に中年期に週2回以上運動している人は、1回以下の人に比べて、高齢になってから認知症になるリスクが50%も低下したのです。

ウォーキングや水泳などの有酸素運動には海馬の萎縮を抑える効果があり、できれば毎日、最低でも週3回、20~60分行うことをおすすめします。体に負担のない程度に続けることが大切で、たとえば、毎日気軽に電車1駅分歩くだけでもかまいません。

最近、認知症予防を謳うサプリメントを多く見かけますが、私はその効果に懐疑的。もし認知症に対する効果が確立されたサプリメントがあるならば、保険適用となり病院から処方されているはずだからです。

一時期流行した「脳トレ」は、効果ははっきりしていませんが、楽しみとしてやるぶんには問題ありません。ただ、「ボケないために」と無理に頑張ってストレスになるのは、むしろマイナスでしょう。興味・関心をもって取り組む知的活動は認知症予防に有効とされ、ゲーム、コンピュータ操作、音楽、ダンスなどを楽しむ人ほどリスクが下がるという多くの調査結果があります。

そうした趣味を受動的に楽しむだけでなく、誰かに伝える、見せる、一緒に楽しむなど、能動的に「発信」するとさらに効果的です。音楽なら楽器の演奏やカラオケ、写真や文章をSNSに投稿、ゲーム大会での腕試しなどがおすすめ。それらのイベントへの参加やボランティア活動、また家族や友人との交流など社会との接触が多い人ほど、記憶力の低下が少ないのです。家にこもりがちなリタイア世代は、より積極的に外に出かけるといいでしょう。

これらの予防法は、健康に気をつけている人には「もう全部やっている」と、少々もの足りなく感じられるかもしれません。しかし私たち研究者にとって、これらにより「難敵である認知症のリスクを減らす効果がある」と知ることができたのは、非常に画期的なことでした。

中年期からプレクリニカル認知症にならない生活を意識すれば、認知症に苦しむリスクを確実に減らすことができるのです。毎日の暮らしを楽しみながら、ぜひ脳の健康にも気を配る生活を意識してみてください。