立ち合いは大切

今場所、貴景勝と前頭8枚目・熱海富士の対戦が組まれたら、貴景勝はどういう相撲を取るか、熱海富士は変化を恐れずに、どういう立ち合いをするかが楽しみになった。初日の熱海富士は前頭9枚目・妙義龍を小手投げで破り、やる気満々さがあふれていた。

立ち合いは大切で、初日、関脇・若元春が前頭3枚目・高安に軽々と投げ飛ばされた。優勝のプレッシャーがなければ、高安は強いことは分かっているが、「どうした若元春!?」と思った。ところが取組後に、立つ前に高安と視線が合って間があり、「一瞬心が揺らぎ、集中しきれないでいってしまった」という若元春の反省の談話がリポーターから伝わった。

相撲は短時間で決まるので、立ち合いに失敗すると、取り返しがつかないことが多い。観戦している方はそこが面白いのだが。

ドイツ文学者で評論家、随筆家としても活躍した高橋義孝さん(1913年~1995年)は、大相撲を愛し、横綱審議委員会の委員長も長年務めた。私の母は大相撲ファンであり、高橋義孝さんのファンでもあった。

母は「高橋義孝さんは立ち合いについて、『私が力士だったら一生立てない』と話していた」と言っていた。笑える話だが、それくらい立ち合いは大切なのだと、私は理解した。

貴景勝は古傷の首に違和感があり福岡に入ってから連合稽古を休んだことが報道されていたが、首の無事を祈るばかりだ。