限界集落の現実も……
とはいえ、島民の猫への向き合い方はさまざまだという。餌は与えても、「最終的には自然淘汰に任せ、不妊手術や医療にかける必要はない」と考える人も多い。それが昔ながらの共生のあり方であり、費用や手間を考えれば、島のすべての猫を世話することなど不可能なのだ。
それでも「毎日餌をやり、名前を付けた子が車に轢かれたなんて聞くと、胸が苦しい」と話すゆう子さん。栄養失調などで小さな命が消えようとするのを目の当たりにすれば、手を差し伸べずにはいられない。
「世話をする人間の数が減る以上、猫も減らしていかなければ」と、夫妻は積極的に不妊手術も行ってきた。命に向き合い続ける猫島での暮らしに、正解はないのだ。
当然のことながら、島民の中には猫が嫌いな人もいて、マナーの悪い観光客に眉をひそめ、観光地化に反対する声もある。移住希望者もいることはいるが、学校や日用品を売る商店すらなくなった田代島では、定住に結び付きにくいのが現実だと聞いた。
人間がいなくなったら、猫たちは生き延びることができるのだろうか……。限界集落としての現実が、心に暗い影を落とす。
そんなことを知ってか知らずか、田代島の猫たちは今日ものんびり、あくびをして暮らしている。しかし彼らは、地球の裏側からも人々を呼び寄せる強力なパワーの持ち主たちだ。《猫は島の守り神》というのは、あながちただの言い伝えではないのかもしれない。