高知の伝統食を洗い出すことから始めたら、まあ、どうでしょう。あらためてその豊かさに目を見張りました。2000メートル級の山々から、幾筋もの川が流れて緑豊かな畑を潤す変化に富んだ地形。
海には、季節を告げる回遊魚、地付きの魚、沖で産卵する魚。陸には、地野菜、酢みかん(果汁を搾って使う柑橘類)、山菜などが次々と実って……。食材も料理も、日本列島の縮図のように多彩です。
「土佐の料理はお酢ぜめ」と言われるほどお酢をたくさん使うのも、冷蔵庫のない時代に保存性を高めるだけでなく、夏の食欲減退を防ぐ目的がありました。
高温多湿な気候風土の中で、土地のものをいかに美味しく食べて健康に暮らすか、昔の人たちよ、よくぞ考えてくださったと頭が下がります。高知に限らず、郷土料理には先人たちの知恵と工夫が詰まっているんです。
昔からこの地では、「ぶしゅかんの実が搾れるようになったき、シンマエが来るぞ!」と言ったものです。ぶしゅかんとは、毎年8月から9月ごろに採れる酢みかんの一つ。その青玉が搾れるやわらかさになるころには、シンマエ(ソウダガツオの幼魚)が沖を回遊するのです。新鮮な刺身にぶしゅかんを搾れば……海の自然と陸の自然がピタリと合って、もう絶品! これぞ高知の旬の味です。
ぶしゅかんが終わると青柚子が実り、次第に色づいて黄柚子になり、師走を迎えるころにはダイダイが旬を迎える。高知の人は昔から酢みかんをこよなく愛し、その変化から季節を感じとってきました。
きっと皆さんが住むところにも、季節を知らせてくれる大事な食材があることでしょう。これこそ、四季のある国に生まれた者だけが味わえる豊かさ。日本中のいたるところで、人々は季節ごとの自然の恵みを感謝しながらいただいてきました。
時間をかけて根づいた郷土料理には、一年中手に入る食材や手軽な加工食品では得られない、その土地で採れた旬の食材が持つ力強い味わいと栄養が詰まっています。だから、美味しくて、体にもいいんです。