高知のさば寿司が人の心を開いた

私は今も、魚の寿司、なかでもさば寿司をしょっちゅう作ります。もともとは、「私が生きちゅううちは、食卓を通じた文化や伝統を次の世代に伝えていかねば!」という思いから酢みかんを科学的に分析し、そのよさを広めようと考えたのがきっかけでした。

試しに柚子果汁100%の柚子酢にさばを浸して寿司を作ったら、これが大人にも子どもにも大好評。土佐学協会理事長の「げに旨いにゃあ」の一言で、あれよあれよと『土佐寿司の本』まで出版しました。

この本を知った高知市内の施設に暮らすお年寄りが、「このお寿司、きれいね。おいしそう」と興味を示し、母の味を思い出したとうれしそうに昔話をしてくれたんだとか。介護スタッフの方が、「先生のお寿司が、心を開いてくれました」と手紙で知らせてくださったときは、何とも言えない気持ちになりましたねえ。

ああ、これも郷土料理の力だと思って。幼いころに食べたものは、昔の記憶を蘇らせるの。思い出話に花が咲き、食卓を囲むみんなを笑顔にする。そんな楽しい会話が生きる活力につながるのです。

戦争が終わって高度成長時代を迎え、世の中は便利至上主義になりました。誰もが効率を追い求めた結果、手作りは減り、孤食が増え、家族の会話は減少の一途をたどっています。私たちはもう一度、身の回りの自然や風土と向き合って「家族の心をつなぐ食卓」を作る必要があるのじゃないかしら。

かく言う私も、仕事で遅く帰る娘と夕飯は別々。「一緒にテーブルを囲まんと話ができん!」と常々、不満を漏らしているわけ。(笑)