「11年前に夫が亡くなってからは、次女と2人で暮らしています。昔に比べたら、今は本当にのんびり」(撮影:釣井泰輔)
地域の伝統的な食文化が、食の欧米化や生活様式の多様化により失われつつあります。自然豊かな高知県で生まれ育ち、土佐の伝統食の研究を続ける松崎淳子さん(崎はただしくはたつさき)に、郷土料理の魅力を教えてもらいました(構成=野田敦子 撮影=釣井泰輔 イラスト=あなんよーこ)

先人たちの知恵と工夫

1992年に65歳で定年退職するまでの43年間、大学で調理学や栄養学を教えてきました。結婚してからは、3人の娘の子育てと姑の介護に目が回るような忙しさ。

それでも仕事を続けてこられたのは、明治生まれの母たちから受け継いだ料理を「科学として研究すること」に、やりがいを感じていたからです。「調理を学に」を使命と思い定め、一途に歩んだ日々でした。

11年前に夫が亡くなってからは、次女と2人で暮らしています。昔に比べたら、今は本当にのんびり。朝は、4時半ごろに新聞配達の音で目が覚めます。寝室で記事をサッと読んだら、またウトウトして……。起きるのは、いつも大体7時ぐらい。

最近は、高知が舞台の朝ドラ『らんまん』を見るのが何より楽しみなの。ありがたいことに、97歳になった今もいろんな会に呼ばれるので、月に何度かはタクシーで外出。それ以外の日は、料理や書きものに精を出して過ごしています。

私が「土佐伝統食研究会」を立ち上げたのは、2003年。加工食品依存の風潮や孤食の増加など、食卓の危機的な状況は深刻化するばかり。それまでも勉強会は開いていましたが、いてもたってもいられなくなり、何とかせねばと本格的に発足させたのです。