表の歴史はきれいごとばかり

また、『日本史を暴く』には、日本のカブトムシ史・クワガタムシ史も添えた。歴史のなかには、光をあてると、見えだすものがある。サーチ・ライトになるのは、文書・遺物などの史料である。

『日本史を暴く―― 戦国の怪物から幕末の闇まで』(著:磯田道史/中公新書)

現代の我々は、小学校の夏休みに、子どもがカブトムシやクワガタムシを飼う風景を、あたりまえのように見ている。ただ、カブトムシを愛する日本人の姿は、大昔からのものではなかった。

江戸の町では、ホタルや鈴虫は売られていても、カブトムシは売られていない。カブトムシは有毒の虫と考えられ、江戸前期の学者は「悪(にく)むべし」と嫌っていたほどである。

そもそも、カブトムシとクワガタムシが近い仲間と考えられ始めたのは、いつからか。子どもがカブトムシで遊ぶのが記録に残るのはいつからか。コクワガタとノコギリクワガタとミヤマクワガタが形の違う虫として、図鑑に載せられてくるのは、いつからか。そんな話を考えてもみた。

およそ、動物などへの意識は、時代によって変化が激しい。現代では、犬や猫に専用の食事が与えられている。江戸時代の記録を読むと、高級旗本の家では「都(すべ)て行儀、人間に等し」と、猫に人間同様に給仕をしてご飯を食べさせ、我が子のようにかわいがる奥様が既にいた。ただ、表向きの教科書的な歴史では、その「猫っ可愛がり」ぶりは無視されてきた。

おおよそ、表の歴史は、きれいごとの上手くいった話ばかりで出来ている。私は、忍者の史料調査もしているから、闇に生きた忍者のことも随分と入れた。読者諸氏は、忍者の研究など一生なさらないだろうから、忍者を研究する時の注意点などは不要の知識かもしれない。

しかし、一応、いっておくと、忍者の研究をする時は、忍者の凄技の成功例ばかり見てはいけない。実は、忍者には失敗が多く、しばしば悲惨な死に方をする。これに目を閉ざしてはいけない。関ケ原合戦時に潜入した「忍之者」がばれて斬られるさまや、尾張徳川家の甲賀(こうか)忍者が経済的に「難儀」していたさまを書いた。私は滋賀県甲賀市で、忍者の古文書を探す「ニンジャファインダーズ」の団長をしている。最近、幻の忍術書が発見され、そのなかにも潜入がばれて、追い詰められた時の忍者の対処が記されていた。