「歴史には裏があるが、新しい史料で、その裏が少しばかり暴けるものもある」(撮影:本社◎中島正晶)
歴史学者の磯田道史先生が著した『日本史を暴く』(中公新書)が、2023年の年間ベストセラー第1位(トーハン・日販調べ。ともに新書・ノンフィクション部門)に輝きました。磯田先生いわく「知っているつもりの日本史も、史料をもとに読みなおせば、新たな面が見えてくる」とのこと。『日本史を暴く』の刊行に際し、読者へ向けた想いとは――

教科書に載っていない歴史の裏

歴史には裏がある。歴史は裏でできている。『日本史を暴く』に書いてあるのは、歴史の裏ばかりだ。小学生になると、日本史の授業で「織田信長」という名前を習う。しばしば、教科書には、安土城跡の写真がある。これは表の歴史だ。

一方で、こんなことは書いていない。信長は地球儀を持っており、家来たちに、天地(宇宙)の形についての学習会を開いていたことや、さらには安土城下とおぼしき光秀の屋敷に信長がやってきて、広間が大きすぎると不機嫌になり、御膳を食べずに帰ってしまい、両者の間に、すきま風がふきはじめた、などの史実である。

こういう肝になる史実は、教科書には、ない。例えば、日本人が地球は丸いと、いつ、どのように知ったのか。そんな話は無視されている。

明智光秀が本能寺の変で、信長を襲って死なせたのは、よく知られているが、そもそも、信長は、なぜ光秀の謀反に気づかなかったのだろうか。逆にいえば、なぜ光秀は信長を欺けたのだろうか。歴史において「なぜ」の発想は大事である。