高知に訪れて主人公像ができた

『らんまん』の主人公は、日本植物学の父と呼ばれている牧野富太郎博士がモデルです。書き始めるにあたり、まず彼の原風景となった場所を訪れることにしました。私は今まで実在の人物をモデルにした評伝劇を何作か書いていますが、その際も必ずそうしてきたのです。

牧野富太郎が高知で過ごした幼少期、よく訪れていたという家の裏山にある金峰(きんぷ)神社に行くと、ごつごつした自然石の石段が迫ってきました。人の手がしっかり入った神社には境内や石段に玉砂利や磨かれた御影石が使われていたりもするけれど、金峰神社にはそういったものはなく、石段も建物も自然と見事に調和しています。

それでいて人の暮らしとかけ離れておらず、小さい子どもが毎日遊びに来るような親しみやすさがある。自然と人の距離感がすごく近い気がしました。

何より感激したのは、たくさんの種類の植物が生えていること。地面に這いつくばっているだけで一日中飽きない子どもの喜びが伝わってきました。そうか、主人公はその実感を生涯持ち続けている「子どもみたいな人」なのだろう、と。

そして、もうひとつ。私はこれまでいかなる作劇においても、「人の心が明るい方向に向かう強さ」を書きたいと思ってきました。植物もまた、太陽に向かって伸びていきます。植物に生涯を捧げた人なら、絶対、明るい方向に向かおうとし続けた人に違いない。その根幹テーマと幼少期の原風景の2つを拠り所にして、書き続けてきました。

今回、重要なモチーフである植物について調べるうちに、「そうか!」と思ったこともありました。地球上には、たくさんの植物が存在しています。それぞれの植物が開花を迎えて、次に命を繋いでいく。さらに地中も含む生態系の中では、さまざまな植物や菌類が互いに作用し合っています。

その植物の様相をそのまま、人間関係にも落とし込もう。主人公が出会った人それぞれが、自分なりの花を咲かせ、繋がっていく。人においても植物のありようを展開させればいいと、モチーフの力に、背中を押されました。