一方、ズンバは生身である。

ズンバの先生は介護職の経験もある人で、老人や病人の歩き方をずっと見てきた。足を引きずって俯いて歩く人たちを見ていて、筋肉だ! と思ったそうだ。

このアヤ先生、カリフォルニアのズンバの先生たちとは大きな違いがある。カリフォルニアの先生たちは、というかアメリカ人は、他人の身体に対してネガティブなことはぜったいに言わない。でもアヤ先生は、ここが悪いあそこが悪いと指摘をする。「いやがる人が多いから、食いついてくる人にしか言わないんですけどね」と。そしてあたしはそこにがぶりと食いついたのだ。

専門はズンバだけに、アヤ先生、ノリがラテンで、明るくて快活であるが、大きい声で真剣に言うのである。

「老人や病人が歩くのを見てきたんですよ。背中をまるめてうなだれて足を引きずって歩くんですよ。それで転ぶ。痛める。歩けなくなる。正しく筋肉を使って歩くことを練習していけば、そんなことがなくなる。もう私はそこらを歩いてる人に誰彼かまわず話しかけたくなっちゃってる気分ですよ、ズンバやりませんかって」

あたしはアヤ先生に、右足の動きが悪いと言われている。毎日言われている。屈伸するとき、爪先と膝を同じ方向に向けないと、ねじれて膝を痛めるんだそうだ。

知ってます。これまでにも運動するたびにいろんな先生に言われてきた。バレエの先生にも、同じことをフランス風の妖精語で言われている。だから自分じゃやってるつもりだった。アヤ先生が「爪先と膝の向きをそろえてー」と叫んでいるときも、誰かが言われてるがあたしじゃないなと思っていたのだ。ところがどっこい。あるとき膝が痛くて力が入らず、それを申し立てたら、「ひろみさん、膝が内側に向くクセがあるから」と言われて特訓がはじまった。爪先と膝、そろえているつもりなのにクセは怖い、膝がどうしても内側に入り込む。だからつねに意識して、内側に入れないよう、まっすぐ保つ。

それだけのことがどれだけたいへんか。腹筋。ふとももの表の筋肉。ふとももの裏の筋肉。ぜんぶ動かす。筋肉がきゅーと鳴く。次の日は筋肉痛になる。でも数日経つと、なんというか、足のつかえが取れたように膝が楽になったのだった。