(画=一ノ関圭)
詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬2匹(クレイマー、チトー)、猫2匹(メイ、テイラー)と暮らす日常を綴ります。今回は「架空のシッポ」。伊藤さんが師事するズンバのアヤ先生は、介護職の経験もあるそう。明るく快活なアヤ先生の教えとは――(画=一ノ関圭)

ズンバ(とバレエ)の話、続けます。

カリフォルニアで、ズンバに、週に12回通っていた頃、当時の先生に「私は今、こんなに熱心にやっているが、やめるとしたら、どんなふうに?」と聞いたことがある。

「身体が老いていって、やがてどこか故障してエクササイズを休む、よくなって出てきて、またどこか故障する。そうやって次第次第に離れていくだろう」と先生は言った。それを何度も反芻しているあたしである。

父の最後の日々、父のおなかがぷっくりとふくらんでいたのだった。本人は「おれ、この頃メタボだから」と言って気にしていた。手足はやせているのにおなかだけ。かかりつけ医に相談すると、「動かないので筋肉が衰えて内臓を支えられなくなり、全体が下垂して、おなかがふくらんで見えるのだろう」と説明されて、あたしは納得したけど、「じゃおとうさん腹筋を鍛えようね」なんてことは言えなかったから、そのまま放置した。父は、全身の筋肉が衰え切っていたから、歩くときも、ただただ引きずるようにして歩いた。弱法師(よろぼうし)みたいだった。

さて、バレエの先生は妖精である。

それで、あたしたちにも妖精になれと指示を出す。あたしはこれまでに読んだバレエ漫画の知識を総動員して、妖精化にコレつとめているのだが、体重とあぶらみがじゃましてなかなか妖精になれないのだ。老婆と妖精は案外近いと思うんだが、なかなか。