私がそれに気づいたきっかけが、冷蔵庫をなくしたことだったのは象徴的なことかもしれません。冷蔵庫って、いわば欲を溜め込む装置。スーパーに行けば、カゴいっぱい買い物をしてしまう。

ところが冷蔵庫をなくしたら驚くほどちょっとのものしか買えなかったんです。人が食べられる量はせいぜいこれくらいだったのかとびっくりしました。欲を溜め込むことができなくなって初めて、そうか、これだけあれば自分は生きていけるのかと、自分の「身の丈」を発見することができたのです。

身の丈がわかれば、将来をやみくもに不安に思うこともなくなります。多くの人が老後を不安に思うのは、結局そこなんじゃないか。自分の欲のサイズがぼんやりとしているから、何をどう備えていいのか、どこまでいってもぼんやりとした不安から逃れられないんじゃないでしょうか。

 

人づき合いは財産だと実感

今の生活費ですか? 一番お金がかかっているのは家賃です。次がカフェ代。家で仕事をしていると引きこもりになっちゃうから原稿はカフェで書いているので……あ、そうか。これって、どうやって節約してるのかっていう質問ですね。

実は私、節約生活をしているつもりは全然ありません。むしろ、使うところではちゃんと使いたいんです。そう思うようになったのは、会社を辞めて、今の小さな家に引っ越して、ものを持たない暮らしを始めてから。我が家にとっては近所の八百屋さん、豆腐屋さんが冷蔵庫代わりで、カフェが書斎、銭湯がお風呂ってことになった。つまりは街全体が我が家になったんですね。