そういうお店がなくなると私の生活は立ちゆかなくなるので、そこではちゃんとお金を使いたいと思うようになったんです。これまでは、1円でも安く買って得することばかり考えていました。でも自分が得するってことは相手が損してるってことですよね。その結果、大事なお店が潰れちゃったら元も子もない。そう気づいてから、お金も気も使うようになって、挨拶も世間話も一生懸命するようになりました。
すると、いつの間にか近所に知り合いがたくさんできたんです。会社員時代は近所の知り合いなんて誰もいなかった。変なしがらみはイヤだったし、ドライに自立して暮らしたいと思っていたから。
でも今では、自転車で走っていたらいろんな人が「行ってらっしゃい」と言ってくれる。カフェで知り合った人の縁で、書道やピアノも習い始めました。銭湯で知り合ったおばあちゃんからおかずを分けてもらうことも。もちろんこちらもいただきものをおすそ分け。
そんなふうに暮らしているうちに、「持ちつ持たれつ」「お互い様」の関係が当たり前になって、ああ、これが本当の安心なんじゃないか、と思うようになりました。
欲を小さくするほど楽になれる
老後資金に不安を抱いている方は、漠然と、「お金が十分にないと、この先みじめになるのでは」と考えているのではないでしょうか。でも、自分にとって何がみじめなのか、何がイヤなのか、よくよく考えているのかどうか。もしかすると「お金があれば、みじめじゃなさそう」というイメージに囚われているのでは?
老後は夫婦で海外旅行とか、友人と評判のレストランで食事とか、誰かが商売のために煽っているイリュージョンかもしれません。もちろんそれが好きな人もいると思いますが、みんながみんなそうではない。でもつい、情報に踊らされてしまう。
高度成長期、登り坂で生きてきて、いろいろなものを手に入れた。その最盛期の生活を維持したいと考えている方もいるでしょう。でも、坂を下るのは本当に怖いことなのか。不安のあまり精神が縮こまっているとしたら、もったいない。世界はもっと広いし、人生は自由です。
自分はこの先、どう生きたいのか。下り坂に入った時、自分に問いかける作業をすると、この先の人生が違って見えてくる。私は、自分の欲を拡大させるのではなく、小さくするほど楽になれることに気がつきました。会社を辞めて人生を切り替えて、本当によかったと思っています。