『別れる決心』
最後にご紹介したいのは、アジア的耽美の極みを追求した映画『お嬢さん』(2016)を撮った異才、パク・チャヌクの作品です。これまで紹介してきた4本は、時代を映す鏡的な役割を映画が果たすことを示してきましたが、『別れる決心』は普遍的な愛の形を表現したクラシックな映画だと思います。
腕利き捜査官のヘジュンは自殺に偽装された事件を追いかけます。その容疑者は被害者の妻である中国から来たソレ。彼女を調べるうちに殺人を犯したことを確信するヘジュンでしたが、同時にソレへの恋心も芽生えます。ソレも自らの疑惑が深まることを意識してヘジュンと相対していく。文字にすると『氷の微笑』(1992)みたいに思われますが、互いの疑惑と恋の駆け引きの描き方がとにかく繊細なのです。
韓流ドラマ、中でも純愛ものに関してはテッパンのクオリティを誇っています。男女の機微(人目を忍ぶ視線の交わし方などの挙措動作)を描かせたら、ほとんど様式美に近いものがある。そのバックボーンをフルに活かしたような、ヘジュンがソレに尋問する場面は必見です。
尋問中、署内で寿司を取って食べたり、ヘジュンの部屋を訪れたソレに手料理を振る舞うなど、これは「デート?」と思ってしまうような展開に驚くことでしょう。ソレがハングルが上手くなく、ヘジュンも中国語が堪能でないため、ぎこちなくなる会話が、たどたどしいだけに可愛らしくもあり、初々しいコミュニケーションに見えるのです。
とはいえ、映画はミステリ&サスペンスの要素も大事にした作りでもあるので、恋心が他の刑事にバレやしないかというライン、ソレの殺人の動機や手口などのラインでスリリングに描いてもいます。この絶妙な匙加減で一度観始めると止まらなくなる。その意味でも他に紹介した4本と違い、物語を語る巧さがダントツに光っているといえるでしょう。