オゾン監督の最新作も要チェック!
そして、第三のオゾン監督の魅力は、音楽遣いの巧みさ。今回も60年代のフレンチ・ポップやシャンソンから見事な選曲がなされていて、フレンチ・ミュージックファンにはたまりません。物語の進行の中で大女優たちが交代で歌い、踊っていく。そのこと自体が何ともゴージャスで、見るだけで楽しくなります。歌は決して上手く歌わず、妙にそっけないのが「シック」。そんなフレンチ美学全開な展開の中、「あれ、パパが殺されたんでは?」というシリアスな本筋も忘れそうに。しかし、これもきっとオゾン監督の思うツボなんでしょう。
しかし、ミステリーとしての「オチ」と「どんでん返し」も見事! 私は21年ぶりにこの作品を見るまで結末のことはすっかり忘れてましたが、「そうか、その手があったか!」と舌を巻く構成でした。
その達者さは最新作の『私がやりました』でもなお健在。これ以上はネタバレになるので言いませんが、とにかくご覧いただければ楽しめ、笑え、共感し、そして最後は泪できることを保証します。「ただ車いすに乗っているだけのしおれたおばあちゃん」だと思っていた「ママ」ことダニエル・ダリューは、往年の大歌手でもあるそうで、彼女が実は複雑な心理を抱えた人物だと最後に解ります。このお方が愛についての真実を古いシャンソンに託して歌い始めると、この物語のどんでん返しの深さと共に、切なくたまらなくなり、私は不覚にも涙してしまいました。これは、コメディのふりをした、とんでもなく深い、愛の哲学の物語。珠玉の作なのです。
グッドタイミングなことに、オゾン監督&ソフィー・マルソー主演の安楽死を扱った問題作、『すべてうまくいきますように』が、年明け2月3日から全国公開。これもコメディで重い問題を達者に料理し、最終的にはスリラーになっている模様。かなり期待してしまいます。
P.S 時間が許せば2020年公開、彼の実にシリアスな『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』をどうぞ。達者なコメディを手品のように作る監督が撮ったとは思えない深刻さ。こちらにはトリュフォーに似た一面を感じます。
オゾンは1967年生まれの56歳。これからの可能性が楽しみなフランスの気鋭。是非チェックを!