夫の携帯電話を解約させ、自宅の固定電話はユウコの番号を着信拒否にしたら、彼女は我が家の周辺を行きつ戻りする。夫も偶然の出会いを装って出かけるので、まるで不審者同士だ。

そのうち私は、夫の姿を見たり、声を聞いたりすると感情の起伏が激しくなり抑えられなくなった。思い切って一昨年、精神科を訪れると医師がやさしく話を聞いてくれた。診断は心的外傷後ストレス障害。薬物療法と環境を変えることを勧められたが、環境は変えられない。半年ほどの服薬で落ち着いた。

考えると病気の原因は夫である。許せない。思案の結果、家庭内別居を提案した。夫は「彼女との関係を断つから考え直してほしい」と哀願したが、私はせせら笑い、頑として譲らなかった。

まずは誓約書を作成。お互い一切の干渉をしない。在宅中もそれぞれの部屋に施錠する。さらに、食事は各自で食材を購入して調理する。運悪く廊下で鉢合わせした場合、即刻どちらかが自室に戻り出直す。

夫婦といえどもしょせんは他人。初めて心身の安らぎを得た。とくに嗜好品を用意して音楽や映画を鑑賞し、1人静かに過ごすのは何にもましての良薬だ。

今後は旅行にコンサートに美術館、ショッピングを楽しみたい。なぜもう少し早く決断できなかったのか、と悔やむことしきりである。