若者たちが転職や副業に積極的な背景

筆者は、顕在化しつつあるこうした不安の背景に、職業生活における選択の回数が増えることが想定されつつあることを指摘する。

リンダ・グラットンは『ライフ・シフト』において、「教育→仕事→引退」という3ステージ人生の崩壊、そしてマルチステージ人生を提起した。

この点はマルチステージを前提とした様々な政策や企業の人事制度等の議論を喚起するなど多くの共感を集めたことも記憶に新しく、日本における職業生活設計の段階を新たなものにした。

リンダ・グラットンが指摘するこの3ステージ人生において、より重要なポイントは従来の日本の社会人にとって、選択のタイミングが2回しかない“2ステップ人生”だったことである。

3つのステージは当然に2つのステップ=選択のみによってつながれる。つまりそれは、「学校卒業後の就職活動」と「定年退職後のセカンドキャリア設計」であった。

就職活動で大きくて有名な会社に入れば、“勝ち組”になれた。年収も高く、社会的地位も高く、それに伴って幸せになれる確率が高かったかもしれない。

定年退職後に退職金の運用を誤らず、人生設計を的確に行えば悠々自適の老後を過ごせる蓋然性は高かったかもしれない。

しかし、3ステージ人生は崩壊した。その後を生きる、現代の若者が直面せざるを得ないのは、選択の回数が飛躍的に増えた全く新しい職業人生である。

例えば、現在の20代後半の若手の離職経験率は51.5%と過半数を超えているし、副業の実施率は13.7%、副業をしたい者は35.3%で合わせてほぼ半数である。大学等での体系的な学び直しやリスキリングを希望する者も多いと言われる。

こうした潮流は世界的にも起こっており、とある世界46カ国対象の2023年の調査によれば、従業員の26%が「今後12カ月以内に転職する可能性が高い」と回答しており、「Z世代」では35%とさらに高い。

また、複数の職に就いている人は全体の21%で、「Z世代」では特に高く30%だったそうだ。

こういった状況を鑑みれば、学校卒業後に就いた仕事の次の仕事をするという選択(転職)が早々に存在する可能は高く、また、仕事をしながら別の仕事をするという選択(副業・兼業)が存在する可能性もあるし、仕事をしながら学校に行く選択(学び直し・リスキリング)もとることができる。

「3ステージ人生=2ステップ職業人生」は、「マルチステージ人生=選択の回数が増えた職業人生」へと転換したのだ。

※本稿は、『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか “ゆるい職場”時代の人材育成の科学』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。


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