「……で、綾瀬くんだりからわざわざやってきて、町内会の連中とここで何をやってるんだ?」
「お話をうかがおうと思いまして」
「何の話だ?」
「駒吉神社の縁日の件とか、いろいろです」
「縁日だと? あんたらテキヤか?」
「そうじゃありません」
「露店を仕切る話じゃないのか?」
「違います。第一、ここは神社じゃなくて寺じゃないですか」
「神社も寺も似たようなモンだろう」
 田代が言った。
「そいつは聞き捨てならないな。聖徳太子がどうして仏教を大切にしたか。そこから話をしようか」
「聖徳太子なんて架空の人物じゃないか」
「そういうこと言ってると、国が滅ぶぞ」
「え……」
「自国の伝説や歴史を大切にしない民族に未来はない」
「そんな話はどうでもいい」
「国が滅ぶのが、どうでもいいというのか?」
 谷津は舌打ちをした。
「順番に話を聞くから黙ってろ」
 そして、阿岐本に眼を転じて言った。「こたえろよ。ここで何をしようって言うんだ」
「申したとおりです。お話をうかがうつもりでした」
「今後、駒吉神社の露店は町内会が出すことになったそうだな? その決定を覆そうとしているんじゃないのか?」
「ですから、そういう目的ではございません」
「じゃあ、何でこのあたりをうろついている」
「別にうろついているつもりはございません」
「昨日もこの寺に来ていたよな。何を企んでいるんだ?」
 それは、日村もぜひ聞きたい。
 阿岐本が言った。
「町内会のみなさんの、率直なご意見をうかがいたいと思ったわけです」
「何についての意見だ?」
「町内の諸問題についてです」
「何かもめ事を見つけて、それに介入して金儲けをするというのが、あんたらの常套(じょうとう)手段だよなあ」
「たしかに私ら、仲裁を頼まれることは多いですね」
 谷津は、町内会の三人に尋ねた。
「こいつらに、何か頼み事でもしたのか?」
 三人は完全にビビっている。