「残念ながら、金はいただけません。そういう話ではないのです」
「そうだよ」
 田代が言った。「俺と阿岐本さんは、金の話なんぞ、これっぽっちもしたことはないよ。第一、寺にそんな金はない」
「税金がかからないんだから、しこたま貯め込んでいるんだろう」
「寺の金のことを、あんたらに言われる筋合いはないね」
「俺たち税金で給料もらってるんでな。税金を払わない連中が許せないんだ」
「寺や神社に税金の優遇措置があるのには理由があるんだよ」
「ほう、どんな理由だ?」
「俺たちが公益法人等だからだ。つまり、営利目的じゃなくて、世のため人のために働いているからなんだよ」
「笑わせるな。世の中生臭坊主ばかりじゃないか。京都の高級クラブは坊主でもってるって話だぞ」
「京都の話なんぞ知らんよ。うちの寺は哀れなもんだよ。檀家は年々減り続け、みんな墓はほったらかしだ。だから無縁墓が増えるばかりだが、勝手に始末するわけにはいかんので、管理して供養を続ける。金は出ていくばかりなんだよ」
「だからって、ご近所に迷惑をかけていいってことにはならないよなあ」
「迷惑?」
「苦情が来てるんだろう? 鐘のことで」
「そうだよ」
 巡査部長が言った。「近所に迷惑をかけておいて、世のため人のためなんて、盗人(ぬすっと)猛々(たけだけ)しいっていうやつだ」

「とにかくさ」
 谷津が言った。「三人はちょっと、署に来てもらおうか」
 面倒なことになったと、日村は思った。
 警察署に連れていかれると決定的に不利な状況に追い込まれる。ヤクザが事務所に連れていくのと同じことだ。
 世間の眼が及ばず、中で何をされてもあきらめるしかない。
 実際、取調室ではなく術科の道場に連れていかれたという同業者は少なくない。柔道の猛者(もさ)にしたたか投げられるのだ。
 殴られるわけではないので、顔にアザが残ったりはしない。そうやってマル暴刑事はヤクザやチンピラに制裁を加えるのだ。
 それが表沙汰になることはない。