河合が言った。
「いえ、私どもはただ、ここに呼び出されたわけで……」
「阿岐本に呼び出されたということか?」
 呼び捨てが気に入らないが、まあ、この場は仕方がない。
 河合がこたえる。
「いえ。私たちを呼び出したのは、住職です」
 谷津が再び田代を見る。
「ヤクザと組んで何をやらかす気だ?」
「そんな質問にはこたえる気にもなれないな」
「じゃあ、ブタ箱に二、三日泊まっていくか?」
 これは明らかな脅迫だ。今どきヤクザがこんな「害悪の告知」をしたら、たちまち逮捕だ。だが、警察官が逮捕されることは決してない。
 権力を楯にした警察官はヤクザよりタチが悪いと日村は思っている。
「捕まえりゃいいさ。俺は何もしていない。阿岐本さんたちも悪いことは何一つしていない」
「ふん。あんたも阿岐本も、叩けば埃の一つや二つ出るはずだ」
 すると、地域課の巡査部長が言った。
「この寺は、近隣から騒音の苦情が出ているんですよ」
「ほう……。苦情か。何をやらかしたんだ?」
「鐘です」
「鐘……?」
「はい。鐘がうるさいと……」
 谷津は少々白けた顔になった。
 さすがに、寺の鐘に文句を言うことが理不尽だと感じたのだろう。
 谷津は阿岐本に言った。
「なるほど、住民の代表を集めて圧力をかけて、苦情を言うやつを黙らせようって魂胆か」
「それができればいいのですがね」
「何だと?」
「物事はそう簡単じゃないんですよ。もし、私らが苦情を押さえつけたとします。でも、それじゃ何の解決にもならない。そうでしょう」
「ふん。解決って何だよ。あんた、何様のつもりだ。政治家か? 役人か? 本当は問題解決なんてどうだっていいんだろう? 住民の声を押さえ込めば、神社の神主や寺の住職から金がもらえるっていう寸法だろう」