日村は思わず言った。
「任意ですよね?」
 谷津が眼をむいた。
「何だと?」
「任意同行なら、同意しません」
「ふざけたこと言ってんじゃねえよ」
「ふざけてはいません。自分ら、罪を犯した覚えはありませんので、警察署に行く理由はないと思います」
「じゃあ、任意じゃなく逮捕だ」
「逮捕状を見せてください」
「そんなものはねえよ」
「じゃあ、逮捕はできませんね」
「あとでちゃんと執行してやるよ。だから、身柄を拘束する」
「逮捕状執行までは、任意ということになります。ですから同行に同意はしません」
 巡査部長が怒鳴った。
「ヤクザが上等なこと言ってんじゃねえよ」
 日村は、言葉を発さず、巡査部長を見返してやった。貫目がものを言う世界で、代貸を張っている日村だ。それなりの迫力はある。
 巡査部長はたじろいだ。
 谷津は舌打ちして言った。
「やめとけ」
 巡査部長が言い返そうとする。
「でも、こいつら……」
 谷津が声を落とす。
「一般市民の眼もある」
 任意で無理やり引っぱることが違法捜査だという自覚があるのだ。
 谷津が阿岐本に言った。
「このままで済むと思うなよ」
「それは、私らがよく使う捨て台詞ですね」
 谷津はまた舌打ちして、本堂の出入り口を離れた。
 取り残された形でたたずんでいた巡査部長は、河合に言った。
「……で、どうすんの? 被害届けとか出す?」
「どうすればいいか、よくわからないんですけど……」
 しかめ面の巡査部長は町内会の三人に向かって言った。
「じゃあ、誰も実害にあっていないのね? 話し合いの結果、和解。これでいいね?」
「いや、それは……」
 巡査部長は若い巡査に言った。
「そういうことで、書類書いておけ。じゃあ、行くぞ」
「はい」
 二人の警察官は去っていった。
 

 

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