「心労を経営していく心構えがなければ、こうした才能はむしろ生きづらさの原因になってしまうだろう」(写真提供◎photoAC)
2023年に発表された世界幸福度報告書で、日本の幸福度ランキングは137ヵ国中47位でした。前年より順位が上がっている中、仕事や家庭、恋愛、老後などうまくいかずに悩んでいる人も多いのでは。経営学者の岩尾俊兵氏いわく、「一見経営と無関係なことに経営を見出すことで、世界の見方がガラリと変わる」とのこと。今回は、心労との向き合い方についてご紹介します。感受性の強さを生活で活かすための考え方とは――。

過干渉と心労の切っても切れない関係

次に重要な仕事を部下に任せる局面を想像してみよう。

ふと部下がコーヒー片手に仕事しているのが気になる。緊急の仕事だと伝えたはずだがコーヒーを買いにいく余裕があるのは百歩譲ってまあいい。でも、そのコーヒーをまさか契約書にこぼさないよね、などと想像が膨らみイライラが止まらなくなる。

案の定、部下のコーヒーが机にこぼれる。私の人生はいつもそうだが人間が想像する良いことはなかなか実現しないのに、悪いことはすぐに実現するものだ。

なんとか書類は無事だ。「ちょっとっ」と思わず声が出る。部下はきょとんとしている。心をなんとか落ち着かせ、「……こっちで一緒に作業しようか」と提案する。なんだか部下は嫌そうだ。「こっちは善意なのに」と思ってもしょうがない。自分が我慢すればいいんだと自分に言い聞かせる。

こうして部下と一緒に作業することで少しは安心できるかと思いきや、近くで作業すると、部下が作成した文書の文字の大きさやフォントのズレ、ダサい図表などが気になってしまう。コピーの枚数ひとつ取っても予備分を用意していない部下のあまりの大胆さが心配になる。仕方なくあれこれ細かい指示を出す。

こうして部下に対して細かく指示すると、そのたびに部下の作業を中断して集中力を途切れさせてしまう。部下からすれば作業に集中できないために仕事の質とスピードが落ちる。こちらもこちらで、しょっちゅう別のことに気を取られて本来の仕事が進まない。

ステーキを食べつつパソコンで作業をするのが至難の業であるように(しかも満足度も低く、大惨事になること間違いなしだ)集中が分散する仕事は効率が悪くなる。仕事が終わらないため結局は上司の自分が補佐に回る。今日も深夜残業だ。