先生たちのように

描き終えるまで32年もかかった『天上の虹』の終盤にさしかかった頃には、だるさとむくみがひどくなりました。

甲状腺の病気を疑いましたが、異常は見つかりません。徹底的に調べてもらうと、すい臓の中のすい管に、腫瘍があるという。即手術となりました。

最初はすい臓の全摘出も覚悟していましたが、手術の結果、ありがたいことに、すい臓は5分の1ほど残せました。今のところ、この小さなすい臓が頑張ってくれています。

近年は、めまいや動悸に悩まされています。すい臓の手術以降、仕事はぐんと減らしましたが、その最低限の仕事すら体調不良でなかなか進みません。あちこち調べて対処していますが、「経年劣化」というのが一番しっくりくる実情です。

人間、生きていればあちこち不調が出てきて当たり前です。こんなに体力が落ちるまで生きられるなんて、それだけでも実に幸運なことでしょう。

「私ももう長くないのかな」と不安になることもありますが、難病にめげず明るく働いている友人や、マンガ家の先輩たちのことを思えば甘えてなどいられません。

『アンパンマン』のやなせたかし先生は、94歳で亡くなる前日まで仕事をなさっていました。

2020年に91歳で他界した花村えい子先生も、最期までゲラのチェックをしておられたといいます。2022年に亡くなった藤子不二雄A先生も、最期まで現役でした。

さいとう・たかを先生に至っては、自分がいなくても『ゴルゴ13』の連載が続けられる仕組みをお作りになって旅立たれました。

私も先生たちのように、最期まで気力とやる気を失わずにいたいのです。

 

※本稿は、『漫画を描くー凛としたヒロインは美しい』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


漫画を描くー凛としたヒロインは美しい』(著:里中満智子/中央公論新社)

1960年代のデビュー以来、数々のヒット作を世に送り出してきたマンガ家・里中満智子。近年は自らの創作のみならず、日本マンガ界を牽引する立場としての活動も高く評価され、文化功労者にも選出された。

「すべてのマンガ文化を守りたい」との想いを胸に走り続けてきた75年の半生を自ら振り返り、幼少期から現代、そして未来への展望までを綴る。