大学時代に研究していた“竹”の存在を活かす

本作には、とある屋敷の敷地内に広がる竹林を手入れする男性・ウィリアム氏が登場する。彼の存在は、本書に散りばめられた謎を解く1つの手がかりとなるのだが、彼が住まう“竹林”の描写が仔細にわたる点にも注目したい。

大学時代、農学部の研究室で「竹」の研究をしていた時期があったんです。竹を分解してタンパク質を抽出したりしていました。以前、『美女と竹林』というエッセイを連載していたのですが、そこでは実際に洛西の竹林を手入れした経験や、研究室時代の思い出を書いています。

子どもの頃から、竹林に対して不思議な印象がありました。家の近所にも竹林があって、そこは別世界とつながっている感覚があって。

竹は、普通の植物と少し印象が違いますよね。きれいなのに不気味で、『竹取物語』が書かれた理由にも合点がいきます。竹の向こうが異世界に通じているような雰囲気が、“月”に置き換えられて「かぐや姫」の存在が生まれたんだろうなと思うんですよ。

今回の作品にも、竹林の描写が登場します。「シャーロック・ホームズと竹林」の絵面は、それだけでインパクトがありますよね。

大都会ロンドンにいるはずのホームズが、なぜか竹藪にいる。しかも、隠居して竹林の手入れに精を出している。その違和感が面白い。改めて、ホームズのキャラクターの使い勝手の良さを実感しています。