大きな区切りがついた

ここ7~8年の間は、シンプルなエンタメではなく、哲学的な作品に寄りがちな傾向がありました。スランプに陥ってから、自分の中にある不思議なものに取り憑かれて、どうしてもそれを“書かなきゃ、書かなきゃ”とずっと思っていて。

それがおそらく、自分が書けずに苦しんできた原因なんだろうなと感じています。「東の東の間」は、そういった自分の心理が反映された存在で、「もうその部屋に閉じこめられているのは嫌だ」と思ったんです。

昨年、作家デビュー20周年を迎え、『シャーロック・ホームズの凱旋』を無事に書き上げられたことで、大きな区切りがつきました。これ以上、自分の中にある深層心理や哲学を突き詰めても、同じことの繰り返しになってしまう。

『熱帯』や『夜行』も含めて、表現しにくい不思議なものを一生懸命表現しようとしてきたけれど、それはもう行きつくところまで行ったと感じているんです。

今作で自分の内面は限界まで突き詰めたので、今後はもう少しエンターテインメントらしい方向に切り替えていきたいと思っています。