全国の書店員がお客様にお薦めしたい本を選ぶ「本屋大賞」。受賞作は毎年ベストセラーになりますが、2021年の受賞作、町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』も、多くの読者を得ています。 18年の受賞者、辻村深月さんと町田さんはともに子育て中。母親業とのバランスの取り方から、執筆時間のやりくりまで、話は広がって──(構成=内山靖子 撮影=本社写真部)
母親業と作家業を両立させるには
町田 「本屋大賞」受賞から3ヵ月が経ち、インタビューやテレビなど人前で話す仕事にようやく慣れてきたところです。でも、生活はほとんど変わりません。先日、近所の方から「サインくれる?」と言われたんですが、差し出された本はほかの作家さんのもの。(笑)
辻村 それは困っちゃいますよね(笑)。ご家族の反応は?
町田 小6の息子はおしゃべりなので、絶対周囲に言って回る。だから授賞式の前日まで、家族には知らせていなかったんです。一番はじめに「受賞した」と父に打ち明けたら、膝から崩れ落ちてしまった。(笑)
辻村 お父さん、とても嬉しかったでしょうね。お子さんたちは?
町田 中3の娘、小6の長男、2歳の次男がいますが、子どもたちは漫画に夢中で本を読まないので、「何かの賞を取ったらしい」くらいしかわかっていない。(笑)
辻村 うちは、小4男子と5歳の女子なので、お母さんとしては町田さんのほうが大先輩です。
町田 いえ、母親としては本当にダメダメで。辻村さん、原稿はいつ書いていらっしゃるんですか?
辻村 子どもが生まれる前までは夜型で、締め切り前に徹夜して間に合わせることも多かったのですが、今はもうできません。朝8時に子どもたちを送り出し、娘を迎えに行く夕方5時頃までを執筆タイムにしています。『かがみの孤城』のクライマックスシーンを書いた時は、パジャマのまま飲まず食わずで集中し、ハッと気づいたらお迎えの時間ということも。そこまで没入できるライターズハイの状態になれることは、作家としては幸せなことですが。
町田 私も辻村さんの時間帯とほとんど同じです。一番下の子はまだ幼稚園に入っていないので、リビングで遊ばせながら、テーブルの上にパソコンを置いて。