子どもたちに教えてもらうこと

辻村 私は妊娠がわかった時は、「これで自分の時間がなくなる」「あきらめなきゃいけないことが増えてしまう」と、まるで出家をするような気持ちになりました(笑)。でも、いざ出産してみたら、「楽しいこともあるんだな」と。出産したからといって、急に自分が清らかな母になるわけでもなく、私は私のままで変わらないのだということもわかりましたし。

町田 情けないですが、私は特に子どもが好きだから産んだわけではなく、田舎町で普通に結婚して、「次は子どもだね」って、周囲に流されるままに来てしまった部分があります。もちろん、子どもは可愛いし毎日楽しいものの、母親としては成熟していない。「今日はよく書けた!」という時は、洗濯機に洗い上がった衣類が入ったままだったり、電子レンジに解凍したお肉を入れっぱなしだったり。

辻村 とっても共感します。(笑)

町田 おまけに、作家を目指すと決めたことで、すれ違いが生じて前の夫とは離婚してしまいましたから……。頼りないお母さんだと反省していますが、長年の夢を叶えた私の姿を子どもたちに見ててほしいなと思っています。

辻村 私の場合は、学生時代からの友人と結婚したので、当時から私が小説を書くことが当たり前の状態で、職業にしてからもそこを理解してくれていて、ありがたいですね。仕事と家庭を分けるというよりは、小説家の自分のまま、家の中でも生活している感覚です。

町田 子どもたちに教えてもらうことも、ありますよね。

辻村 そうそう、息子が読みたいという漫画を一緒に読んでみたら、すごく面白くて、新しい気づきがあったり。自分では選ばないものに触れられる。

町田 私は、自分が中学生時代にできなかった会話を、娘が友達と楽しんでいるのを見るのが嬉しい。私が憧れていた世界を見せてもらって、「ありがとう」という気持ちでいっぱいです。

〈後編につづく