「あの……」
藤堂が遠慮がちに言った。「私たちとの話が、まだ途中だと思うんですが……」
すると、河合が言った。
「話なんてどうでもいいよ。もう帰っていいよね?」
山科もそれに同調する。
「帰ろう。もう昼時だし……」
「いや、でも……」
藤堂が言う。「こういうことは、ちゃんとしておかないと……」
田代が言った。
「さすがは、元役所勤めだ」
阿岐本が藤堂に言った。
「昼時なんで、手短に済ませますよ。私らがまず訊きたいのは、テキヤに代わって町内会で露店商がちゃんとやれるのか、ということなんです」
河合がこたえた。
「当然だ。出店くらいやれる。連合会の連中の力も借りるからな。連合会は商店街の集まりだから、店のノウハウは充分に持っている」
阿岐本が言う。
「じゃあ、ナンですね。仕入れのこととか、売り上げの管理なんかは心配ないということですね?」
「みんな商店街に店を持っている連中だ。当然だろう」
「それを聞いて安心しました」
阿岐本はそう言ったが、本心なわけではない。日村にはそれがわかった。
縁日の露店商は、学園祭の出店とは訳が違う。一番大切なのは、トラブル処理だ。店同士の、客同士の、そして店と客のトラブルをどう収めるかがきわめて重要なのだ。
テキヤには組織力がある。露店商の背後には多嘉原会長のような人がいるわけだ。それが、いわば抑止力になっている。
どんな連中がどんなクレームを言ってくるのかわからない。テキヤはそれに対処できるが、町内会ではどうだろう。
阿岐本も同じ疑問を感じているはずだが、それについては何も言わなかった。
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