「大木神主とはお親しいのですか?」
 阿岐本の問いに、藤堂がこたえた。
「親しいというか……。地域の中にある神社ですので、それなりにお付き合いさせていただいております」
「大木さんについて、最近何か気になることはありませんでしたか?」
 藤堂が怪訝そうに聞き返す。
「気になること? どんなことです?」
「どんなことでもいいんです」
 藤堂はしばらく考え込んでいたが、やがてかぶりを振った。
「いいえ、特に思い当たることはありません」
「そうですか」
 阿岐本は、河合と山科を交互に見ながら尋ねた。「お二人はどうです? 何かご存じないですか?」
 河合が、山科と顔を見合わせてから言った。
「別に気になることなんてないけど……」
 山科が言った。
「俺たちは知らないけど……」
「俺たちは?」
 阿岐本が尋ねた。「どなたか他の方なら、何かご存じだということですか?」
 さすがにオヤジだと、日村は思った。大切なことを聞き逃したりはしない。
「原磯さんなら、何か知ってるかもしれない。なあ」
 山科が河合に同意を求める。
 河合は言った。
「さあな。俺にはわからない」
「だって、あんた、原磯さんとけっこう飲みに行ってるじゃないか」
「そんなに頻繁に行ってるわけじゃないよ。誘われたら、別に断る理由もないんで……」
 そうだった。そもそも原磯から話が聞きたかったのだ。日村はそれを思い出した。
「ほう……」
 阿岐本が尋ねた。「その原磯さんとおっしゃるのはどなたです?」
 河合がこたえた。
「連合会の役員でね。不動産屋ですよ」
 山科が言った。
「私も世話になっている。アパートを持っているんでね」
 河合も山科も、先ほどに比べてよくしゃべるようになった。阿岐本に対する警戒心が若干ゆるんだようだ。
 おそらく、谷津があまりに恐ろしかったので、阿岐本への恐怖心が薄まったのだ。比較の問題で、彼らが阿岐本を受け容れたわけではないと、日村は思った。