義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。
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「警察官の質も落ちてるな」
田代が言った。「昔は交番のお巡りさんも、もっと地元の人に親身になってくれたもんだ」
阿岐本がそれに応じた。
「どこの世界も人材不足なんでしょう」
「人材というか、人がいないんだよ。どこもかしこも人手不足って言ってるが、いったいどういうことなんだろうね。だって、世間には人がいっぱいいるじゃないか」
「いろいろ選べる世の中になったってことじゃないですかね」
「いろいろ選べると人が減るのかい?」
「例えば、昔は社会に出ると言えば地域の会社に勤めるとか公務員になるとか、選択肢は限られていたでしょう。そうすると、それぞれの会社や役所には人がたくさん集まることになります。親の仕事を継いで農業をやったり漁業をやる人も多かった。でも、何をやってもいいってことになると、人が散らばって、一所に集まらなくなるわけです」
「そんなもんかね……」
「誰だって、辛いこととかつまらないことは嫌ですからね」
「人に雇われるのが嫌だから起業したり、ユーチューバーになったり……。そういうわけか」
「自由なのはいいことです」
「でもさ、堪え性がないのはどうかと思うね。最近の若いやつらは、すぐに転職するらしいじゃないか」
「何でも、アメリカじゃ転職するたびにランクが上がるらしいです。経験値が上がるんですな」
「そういうの、俺は世知辛く感じるんだよなあ。仕事が好きとか会社が好きとか、そういうのが基本だと思うんだけど……」
「アメリカと日本は違うんでしょう」
「だからさ、アメリカの真似なんかしてもしょうがないんだっての。あんな国になったら日本はお終いだよ。田舎に住んでるやつはみんな保守的で、都会に住んでるやつは競争で目がつり上がっている」