つい緊張するお父さん
こんなこともあった。
お父さんが3歳の子を連れてきた。お子さんは、昨日からお腹が痛いのだそうだ。子どもの腹痛は胃腸炎か便秘でほとんど説明がつくが、中には怖い病気も隠れている。だからしっかり診る必要がある。
「じゃあ、お父さん。靴脱いで診察台に横になって。お腹を診ますね」
「はい、分かりました」
お父さんは子どもを自分の膝から降ろし、何やらゴソゴソやっている。見ると、お父さんが診察台に上ろうとしている。
「ちょ、ちょっと!何をしているんですか?診るのはお子さんのお腹ですよ」
これって、やはり緊張のせいなのかも。
さらにこんなことがあった。
お父さんが1歳の子を連れてきた。数日前から咳が始まり、だんだんひどくなってきて、夜も起きてしまうそうだ。お父さんの膝の上に座ったお子さんは、ゴホゴホと痰絡みの咳をしている。こういうときは、風邪で収まっているか、気管支炎にまで広がっているのかを知るのが重要。したがってぼくはさっそく聴診器を耳に装着して声をかけた。
「では、胸の音を聴きますからね」
子どもの衣服をめくってもらうように、ぼくは手のひらを上に向けて、下から上へ持ち上げて言った。
「むね、あけてください」
「はい、分かりました」
お父さんは、お子さんの両脇に手を差し込むと、子どもをリフトアップした。
「うえ、あげて、どうするんですか!胸を開けてください」
いやあ、これも緊張していたんだろう。実に愛すべき父親の姿である。でも、ぼくも人のことは言えない。