「谷津さんから、何か聞いてないんですか?」
「谷津は、地元の組をちゃんと教育しておけと言っただけだ」
「町内会の人たちがどんなことを言ったか、谷津さんは言わなかったのですか?」
「そんなことは言ってない。あいつは電話をかけてきて、あんたらの素性を確認した。そして、さっきの言葉を吐いたわけだ」
「ちゃんと教育しておけと……」
「そうだ」
「それはご迷惑をおかけしました」
「ほんと、迷惑だよ」
「谷津さんに何か訊かれたんですか?」
「だから、おまえらの素性とか、阿岐本組についてとか……。あ、いや、ちょっと待て」
「は……?」
「危ない危ない。危うくはぐらかされるところだった。質問しているのは俺たちなんだ。目黒区の西量寺で、あんたらがいったい何をしていたのか、聞かせてもらおうか」
日村は言った。
「昨日から申し上げておりますが、話を聞いていただけです」
甘糟が割って入った。
「昨日も住職からありがたい話を聞いていたそうだけど、また、同じ話を聞きにいったってこと?」
「ええ、まあ……」
「今回は、町内会の人たちもいっしょだったんでしょう?」
「町内会の人たちも、住職のありがたい話を聞いたんです」
仙川係長がふんと鼻で笑った。
「甘糟ならそれで済んだかもしれないけど、相手が私だとそうはいかない」
「でも、本当のことですから」
一瞬懐柔されかかった仙川係長が、再び険しい表情になった。怒りが再燃してきたのだろう。
こいつは腹を据えてかからなければならないようだ。オヤジが「丁寧にお相手してやんな」と言っていた。
日村は覚悟を決めることにした。