義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。
車に乗ると、日村は言った。
「差し出がましいことをしました」
谷津が「署まで来い」と言ったときのことだ。
阿岐本は言った。
「まあいいさ。俺だってしょっ引かれるのはごめんだ」
「すみません」
「それより、大木さんが原磯って人と急に仲よくなったというのが、ちょっと気になるな」
「はい」
「山科さんは、スナックに新しいバイトが入ってからのことだと言ってたが、本当にそれが理由なのかが疑問だ」
「スナック『梢』に行ってみますか?」
「そうさなあ……。俺たちがあまりうろうろすると、また警察沙汰になりかねない」
「そうかもしれません」
「こういうときこそ、また、真吉の出番だろう」
「あいつを『梢』に行かせるということですね」
「何か聞き出してくれるだろう」
「承知しました。今夜にでも行かせましょう」
「それとな、原磯さんのことだ」
「会って話が聞けるように、段取りしましょう」
阿岐本はうなずいてから言った。
「事務所に戻ると、きっと甘糟さんが来てるだろうな」
「また谷津から連絡が行ったと……」
「当然行くだろう。谷津は俺たちを引っ張れなくて悔しい思いをしているから、誰かに八つ当たりしたいはずだ」
「甘糟さんがとばっちりを食うということですね」
「だからさ、丁寧にお相手してやんな」
「はあ……」