現金しか扱うことができない

「無縁遺骨」などの対策の先進地、横須賀市でその舵取りを担う福祉部福祉専門官の北見万幸さんにも苦い経験が記憶に残っている。

市内在住のひとり暮らしの男性は、がんが見つかる78歳までペンキ職人として働き、翌年、79歳で亡くなった。

『ルポ 無縁遺骨 誰があなたを引き取るか』(著:森下香枝/朝日新聞出版)

身寄りがなかったので市で戸籍をたどり、相続人の調査をすると、東北地方に親族がいた。連絡したが、遺体や遺骨の引き取りは難しいと言われ、墓埋法が適用され、公費で荼毘に付した。

遺品整理をしていると、火葬と無縁仏にしてほしいと書かれた遺書と銀行の預金通帳が見つかった。男性の銀行の預金口座に20数万円が残されていた。

葬祭扶助の基準額は約21万円なので、口座のお金を充てれば弁済できた。

しかし、遺留金よりそのお金を口座から引き出すため、相続財産管理人を選任する行政手続きの費用のほうが高くつくため、口座に手をつけられなかった。

北見さんは、「行政の裁量では亡くなった方が残した現金しか扱うことができず、男性の残した預金を使って思いをかなえることはできなかった。今は多くの人が銀行口座にお金を預けているので、遺留金の使用はハードルが高い」と振り返る。