永神がこたえた。
「何の用って……。兄弟分に会いにきちゃいけねえんですか?」
「何かを共謀する疑いがある」
「ただ世間話をするだけですよ」
「そんな言い訳が通用するか」
「言い訳なんかじゃありませんよ。俺はアニキに会いにきただけだ。それを邪魔する権利が警察にあるんですか?」
「組員が五人以上集まることを禁止している」
「そりゃ、特定抗争指定暴力団の話でしょう。俺の組はまあ、指定団体の枝の枝だが、阿岐本組は指定団体ですらねえ」
「ヤクザはヤクザだ」
「そいつは言いがかりってもんですよ。言いがかりは俺たちの専売特許なんですがねえ……」
「ここで埒が明かなかったら、署で話を聞くことになるぞ」
「え……。何もしてないのに、引っぱられるんですか? そりゃ違法捜査ってやつじゃないんですか」
「暴対法でどうとでもできるんだよ」
 無茶な話だと日村は思ったが、今や実際にそういうことになっているようだ。シノギもままならなくなった組が次々と解散している。
 暴力団が解散したからといって、ヤクザやチンピラがいなくなるわけではない。そいつらは、それぞれに悪さをするようになる。
 つまり、地下に潜るわけだ。警察ではその実態をつかむことはできない。警察は自分で自分の首を絞めているようなものだ。
 さらに、歌舞伎町などでは暴力団の睨みがきかなくなったことで、悪質なホストクラブが増えたり、家出した子供たちがたむろして、ひどく環境が悪化しているという。
 だが、これはヤクザの言い分なので、世間が耳を貸すことはないだろう。
 そのとき、奥の部屋の扉が開いた。