義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。
9
さて、どうやって仙川係長の追及をかわしてやろうか。
日村がそう考えていると、インターホンのチャイムが鳴った。
応対した稔が言った。
「永神のオジキです」
「オジキ?」
そう聞き返したのは仙川係長だった。
日村はこたえた。
「はい。甘糟さんはご存じですよね」
「阿岐本組長と四分六分の盃を交わしてる兄弟分です」
「つまり、阿岐本の舎弟ということか」
その永神が事務所に入ってくると、仙川係長の顔色が悪くなった。
阿岐本組の組員たちに比べると、永神は格段に「らしい」恰好をしている。見るからに恐ろしいのだ。
永神が仙川係長と甘糟を見て、日村に尋ねた。
「お客さんかい?」
「北綾瀬署の仙川係長と甘糟さんです」
「おう。そりゃごくろうなこって……」
仙川係長の顔色がますます悪くなる。甘糟も嫌な顔をしている。
仙川係長が、強気な態度で言った。
「何の用があってここに来たんだ?」