「町家ステイ」はなぜうまくいったのか

アレックス・カーは2000年代に、京都の旧市街に点在する伝統的な町家を改装して、一棟貸しの宿に転換する事業に取り組みました。

従来のホテルや旅館のように、いたれりつくせりのサービスを揃えるのではなく、お客さんに鍵を渡して、「どうぞお好きにお使いください」というスタイルは、このときに生まれたものです。

京都の風情ある町並みは、木造の町家が作っています。しかし、それらは今の時代に住むには古く、不便だということで、解体が急速に進んでいました。何とかその流れを食い止めることはできないかと、頭をひねった末に編み出した枠組みが、町家を一棟貸しする「町家ステイ」でした。

『観光亡国論』(著:アレックス・カー、清野由美 中公新書ラクレ)

現在はインバウンドブームとともに、古い町家を宿にリノベートする動きが、京都だけではなく、全国に広がっています。しかし私たちが始めた当時、町家を宿泊施設として生かす事業が成功するとは、誰からも思われていませんでした。

周囲にいる京都の人たちは「お客さんは便利なシティホテルか、フルサービスの旅館かを好むから、どっちともつかない町家はうまくいかない」と、否定の言葉を投げてこられました。

ところがフタを開けてみたら、町家の宿は予約でいっぱい。海外からのお客さんが多いだろうと思っていましたが、「一棟貸しのスタイルでは来ないだろう」といわれていた日本国内のお客さんが多かったことは、運営側の私たちにしても予想外のことでした。

今振り返ってみると、あれはおそらく《オワコン》化していた観光業に対して飽きを覚え、新しいスタイルを求めているお客さんが多かったことの表れだったのかもしれません。