『婦人公論』3月号の表紙に登場した名取裕子さん

愛犬の存在に助けられて

ただ、災難は重なるもので、同じ時期に自分の病気とも向き合うことになりました。継母は早い段階で施設に入所していたとはいえ、私は父の死のショックや仕事の疲労がきっかけで、パニック障害と更年期障害を発症してしまって。新幹線やエレベーターの扉が閉まると息ができなくなることもありました。

あのとき、どうやって抜け出したのかしら――。喉元を過ぎれば忘れてしまうタチなので詳しく覚えていないのですが、あまり抗わなかった気がします。気持ちが落ち込んでも、底まで沈めば自然に浮いてくると思っていましたね。

だって人間の体は、そうやってできているから。それに日本であれば、どこかで倒れても誰かが助けてくれるでしょう。(笑)

一番大きかったのは、愛犬の存在です。当時、飼っていた犬に子どもが生まれたばかりで。ベッドから起き上がるのがつらい日でも、エサをあげるために元気を振り絞ることができたし、地方ロケに行くときも、「私が帰らないと」と思えば飛行機にも乗ることができた。落ち込む暇もなく世話をしていたら、次第に症状も治まったのです。

親との別れや闘病を通して学んだのは、弱い自分を認めてあげて、少しずつ改善していけばいいのだということ。そしてどんなに小さなことでも、何か達成したら自分を褒めてあげる。

たとえば、落ち込んで部屋がぐちゃぐちゃになっても、1日10個ゴミを捨てられたらそれで十分。「いまはこれが精一杯!」なんて泣き言を言いながら片づけていると、周りにいる人たちが笑ってくれるんです。

人間は強い生き物だけれど、同時にとても弱い部分もある。困ったときは、助けを求めるに限ります。だから私は、日頃から人に弱みを見せるようになりました。そして大好きな友だちに、いつも助けてもらっています。(笑)