「家賃」と「人件費」
清水:そもそも今、街場の本屋さんでは、紙の本でちゃんと儲けが出ているのでしょうか? 僕自身、たくさん本を読まなければならない事情もあって、紙より電子で買う機会が増えている。でも出す側の立場で考えると、電子書籍はそこまでまだ売れてはいない。電子版が売れるには、まず紙の本で手に取ってもらえることが必要…という、パラドキシカルな状況に陥っていると感じています。
大塚:よく言われることですが、書店経営のハードルとは「家賃」と「人件費」。でも家賃は削りようがない。だから、人件費を削りに削って、書店員さんが食べられないような状況まで追い込まれた、というのが現在です。そんな厳しい状況の中であらためて考えれば、家賃を払っている以上、店舗そのものは、1日中使えるわけです。それで今まで閉まっていた時間帯で売り上げが発生するなら、それはやはり一つのチャンスですよね。
編集:初回に取材させていただいた双子のライオン堂さんも、二つのハードルについて触れていました。それを乗り越えるために、店舗となるマンションの一室をローンで購入し、書店営業以外に収入源を作った話をされていましたし、よく理解できます。さらに無人販売の時間を増やすことで人件費をさらに削る、という方向性もありうるのでしょうか?
大塚:もちろんそうした対策が有効なお店もあるかもしれませんが、我々がまず目指しているのは「今ある街の書店の経営を、この先もいかに成り立たせるか」ということ。そのためにも今のお客さんが離れるようなことはできるだけ避けつつ、夜間に新しい売り上げを獲得できる方法を提案したい。もし無人販売主体の店舗を作るなら、はじめから「そういう(=無人)お店です」という共通認識やコンセプトを打ち出して、ということになるでしょうね。
編集:私が住んでいる豊島区に、住民や企業から募ったアイデアをもとに事業化を進める「区民による事業提案制度」が昨年設けられまして。実は「無人本屋さんを街角につくったらどうか」と書いて応募したんですよ。
清水:え、この連載と関係なく?
編集:完全にプライベートです。(笑)これまでの取材を通じて知ったことでもありますが、街に本屋さんがあることで、周辺の雰囲気や治安が良くなったりする。一方で、うちの周囲の商店街はシャッター通りになっていますし、試す可能性はあると思って。
大塚:ショッピングモールが開店するときも、いいお客さんが付きやすいから「書店に入ってほしい」と、家賃含めて優遇されることが多いと聞きます。