AI時代の本の価値

清水:本とAIって、全く違う存在のようだけど、AIの世界では本の価値が見直され始めています。ネットにあふれている情報は玉石混交で、決してよいものばかりと言えない。本なら、ある程度のクオリティが担保されている。加えて、本が母国語で書かれていることが、その国のAIの進化において大切なことでもあって。日本のように、母国語で書かれた本がこれだけ存在している国は珍しいし、その意味で実は強い。

清水さん「本とAIって、全く違う世界のようではあるけど、むしろAIの世界では本の価値が見直され始めている」(写真:本社写真部)

編集:一方で、クリエイターと出版社などのメディア企業の関係性にまつわるニュースが多く流れています。その中に「本にする意味」「出版社を経由する意味」などの議論も混じるようになっていて。

大塚:もちろん、いろいろな事情やケースを辿った先の先で、「本って何のためにあるの?」「出版社って何のためにあるの?」という議論が生じているわけですよね。創作物を表に出すだけなら、中間搾取されるだけムダ、という話になりがちですが……。そもそも表現者が発表の仕方や売り方を選ぶ、直接販売する、というのはあるべき姿だったのだと思います。これまで選べなかっただけで、今でも出版社や書店を経由するメリットは、やはりあるのではないかと。選択肢が増えたのはいいことなのに、単純に対立させた構図で考えてしまうのはもったいないな、とも感じたり。

清水:それこそ本を取り巻く状況も、何かをきっかけに、良い方へガラッと変わると思っているのだけど。前にリクルートの『R25』というフリーペーパーが人気を博したときがあって。すでに浸透していたフリーペーパーに、新しくエンターテインメント性を加えたことで、あらためて脚光を浴びた。

編集:突然「これからはフリーペーパーじゃない?」って。

清水:前回取材させてもらった「PASSAGE by ALL REVIEWS」さんは、著者と読者の間の距離を変えていました。サインや特典を加えて“グッズ”という側面で、本の価値を増やしたり。それって「ハック」なんですよね。既にあるものの、何かを変えることで、価値を新しく生み出すという。

編集:サラリーマンとして働いている限り、書店の営業時間と生活リズムが合いにくい。本屋さんにアクセスしにくい状況に置かれ続けているのは事実と思います。だからこそ「ハック」というか、既存店が新しい仕組みで夜間営業を、という取り組みは大変にありがたいですね。