いいグローブ、買わなきゃな
それ以来、ギクシャクした関係が続き、「離婚」の二文字が頭をよぎり始めた2年前、思いもよらず、娘のほうが離婚して、1歳の孫を連れて戻ってきた。
「新しい保育園が決まるまで、息子の面倒をみて」と懇願された美咲さんは、やっと馴染んだパートを退職。無責任にかわいがれるのが孫の醍醐味だと思っていただけに、「これじゃ、子育てのやり直しじゃない」と、不満でしかなかったそうだ。
「ところが、夫は『任せておけ』と請け合って。野球部出身の夫は、息子とキャッチボールをするのが夢だったんですが、娘しか授からなかったので叶わなかった。だから孫が男の子とわかった時、第一声が『いいグローブ、買わなきゃな』だったくらい大喜びで。本来なら心配なはずの娘の出戻りも、『未来の野球仲間が来た!』と言わんばかりで、それは嬉しそうでした」
いざ孫との同居がスタートすると、夫は娘の時にはまったく関与しなかったおむつ替え、散歩、入浴、寝かしつけなどの子育て全般を率先して担当。それどころか、紙芝居や孫の好物のおやつを手作り。「できるだけ安全なものを食べさせたい」と、家庭菜園まで始めた。せっかく主婦に舞い戻った美咲さんだが、孫育てに加わる余地はまったくない状態だ。
「掃除を手抜きすると、夫が『孫がアレルギーになるといけない』とせっせとホコリを拭き取る。一品料理で済ますと、『野菜が足りない』とおかずを作り足す。いずれも私を責めるのではなく、楽しそうに勝手にやってくれるので、けっこうありがたいんです」
何よりそんな夫の新鮮な姿に、美咲さんの「粗大ゴミ」感情はすっかり消え去ったそうだ。
「『イクメン』っぽい意外な一面が、なんだかかわいらしくて(笑)。もう離婚は考えていません。あくまでも今のところ、ですが」