子どもから結婚の報告を受けた時、親の立場にある誰もが、祝福の思いとともに、「やっと肩の荷がおりた」と胸を撫でおろすことだろう。

でも、さまざまな事情を抱えて実家にわが子が舞い戻ってきたら、親が抱える落胆、不安、負担は計り知れない。実際に「出戻った子ども」を持つ3人の母親たちに、その胸の内を聞いた。

 

美由紀さん(68歳)の場合

亭主関白と化した息子への怒りは頂点に

今年49歳になる息子が3歳の時、夫が病気で他界した。以来、女手ひとつで息子を育てあげた美由紀さん(仮名・以下同)。息子の結婚、孫の誕生、自身の定年退職を経て、「あとは自分の面倒をみるだけ。残りの人生、悠々自適に過ごそう」と穏やかな日々を送っていた。

が、息子が「性格の不一致」を理由に離婚。高校生と大学生の子どもを元妻に託し、実家に戻ってきたのは約2年前のことだ。

「『養育費と学費の支払いで精一杯。家賃を払う余裕がないから、一緒に住まわせて』って。当初は、戸惑うというより、息子とまた一緒に暮らせることがちょっぴり嬉しかったんです。幼い頃からよく家事を手伝ってくれる子だったので、家事が軽減できるかな?なんて」

しかし、約20年の結婚生活で息子はすっかり亭主関白な男になっていた。

「申し訳ない」と前置きしながらも、「メシは?」「ワイシャツ、クリーニングに出しておいて」などと、美由紀さんを家政婦扱いするのだ。

「業を煮やして『自分のことは、自分でしてちょうだい』ときっぱり言い渡すと、『申し訳ない。仕事が忙しくて』。せめて1、2万円でも家に入れてくれたらそれも許せますけど、1円たりとも入れませんからね。『申し訳ない。子どもたちが自立するまで、甘えさせてください』と、申し訳ない、の安売り三昧。情けなくて涙も出ないです」

息子への鬱憤が爆発しそうになったのは、近所の人からこんなことを言われた瞬間だった。

「息子さん、離婚してひとり暮らしをするつもりだったけど、年老いたあなたが心配で同居を決意したんですってね。優しい息子さんを持って羨ましいわ~!」

同じセリフを、あちこちで投げかけられただけではない。「身体を壊したんだって?大丈夫?」と心配されたこともある。病気の母親のために、仕方なく実家に帰ってきたことになっているのだ。その場は、当たり障りなく切り抜けたが、ありもしない事実を吹聴する息子への怒りは頂点に達した。

「ハァ?ですよ。シングルマザーだった私は、養育費や学費がどれほどかかるか、重々承知しています。仕事で疲れ、家事をしたくないのもわかる。だから、甘えてくるのはまだ許容範囲なんです。だけどね、私を弱いお年寄りに仕立てて、自分を美化する行為だけは、絶対に許せなかった。息子に率直な気持ちをぶつけると、またもや『申し訳ない』。次いで『いい大人の男が、金がないから親を頼って帰ってきたなんて、口が裂けても言えないだろ?』ですって。いつからこんな見栄っ張りになってしまったんでしょう」