もっとも呆れたのは、時折遊びにくる孫が、「実は、学校から学費の督促がたびたび来るんだ。お母さんがピリピリするから、オヤジに支払い日をちゃんと守るよう伝えておいて」とこぼしたこと。

「息子は悠長に『つい忘れちゃうんだよな~。おふくろが振込日を覚えておいてくれない?』。子どもにいらぬ心配をかけないのが、親としての最低条件でしょ?『今のだらしないあなたと暮らすのはごめん。直す気がなければ、出ていって』と突き放したけど、やっぱり『申し訳ない』と笑って済まされてしまいました。親業って、子どもを持った以上、一生続くんでしょうか?」

 

 

恵さん(60歳)の場合

未婚の母となった娘は仕事もせず、能天気なまま

「私、子どもができたの。結婚はしない。ここに戻ってくるので、子育てに協力してください」

専門学校を卒業したあと、東京で働きながらひとり暮らしをしていた娘(32歳)が、突然、大きなお腹を抱えて、岩手の実家に帰ってきたのは3年も前のこと、と目を伏せる恵さん。

「見るからにすでに臨月で、出産しか選択肢がない状態でした。まあ、親に反対されないように、そうした手段に出たんでしょうけど。仕事中の夫に電話をかけ、『とにかく今すぐ帰ってきて!』と叫んでいました」

慌てて帰宅した夫(58歳)は、娘のお腹を見たとたん、鬼のような形相で「即刻、相手の男を連れてきなさいっ!」と怒鳴った。

訪ねてきたのは、42歳の妻子持ちの男性だった。本当か否かは不明だが、娘との関係も妊娠の事実も妻には正直に話したそうで、「認知もするし、養育費を月額15万円、学費もその都度支払う。週に1度は岩手を訪れ、父親業もする」という。

「ただ、地元ではわりと大きな会社の社長で、政略結婚の相手である妻とは離婚できない、って。田舎では、単なる離婚でも噂話の格好のネタになるのに、未婚の母となる娘や、その娘を育てた私にどれほど好奇の目が注がれることか……。想像するだけで恐ろしくて、思わず泣き崩れてしまいました」

一方の夫は、無言のまま便箋と朱肉を持ってくると、「今約束したことをすべてここに書き、拇印を押しなさい!」。その要求に真摯に応える男性。涙を拭いながら、お腹をさすり続ける娘。

そんな3人をぼんやり見つめながら、恵さんは、「どうあがいたところで、子どもは生まれてくる。子どもに罪はない。みんなでしっかり育てていくしかないね」とつぶやいていた。