娘はいっこうに仕事をする気配はなく
「母性ってやつでしょうか。娘も孫も守らなくちゃっていう気持ちが急激に湧いてきたんです。翌朝、さっそくご近所さんに『娘さん、いつ結婚したの?お腹の子のパパは?』と興味津々に突っ込まれましたが、噓は長くは続かないと踏み、『結婚しないスタイルでいくみたい。今時でしょ?』と必死に笑顔をつくりました。そうやって堂々としていると、案外、変な噂にはならないものですね。少しホッとしました」
いざ生まれてみれば、孫は本当にかわいい。恵さんは孫のために学資保険をかけ、月額3万円の積立貯金も始めた。洋服、ミルク、オムツなどの費用も、恵さん夫婦もち。娘の「養育費は、子どもの将来のために貯金しておきたい」という言葉になんとなく納得したからだ。
「孫が保育園に入れる年齢がきたら、娘は当然働きに出て、家にお金を入れてくれるはず。それまでは、と思っていました。でも孫が3歳になった今も、娘にはいっこうに仕事をする気配がない。家事もちょっと手伝うだけで、毎日子どもと遊んでいる。『もし、パパの会社が倒産して、養育費どころではなくなったらどうするの?明日パパが死んで、パパという防波堤がなくなった時、奥さんが膨大な慰謝料を請求してくるかもしれないよ?』と尋ねても、『大丈夫、大丈夫。お母さんは心配しすぎ』と鼻で笑う始末です。私の子育てが間違っていたんでしょうか」
夫の定年まであと2年。恵さんは、「このままだと、老後資金にも手をつけざるをえなくなりそうで不安」と顔を曇らせた。