紆余曲折を経て、芯の強い女性に育ちつつある孫
皮肉にも節子さんの唯一の味方は、わが家をボロボロにした根源である娘の元夫になった。毎日届く「僕は、家族を再生させることを一生諦めません」といった内容のメールだけが心の救いだった。孫にも、どんなに無視されようが「元気か?何かあったら頼りにしてくれ」とメールを根気強く送り続けていたという。
「孫が高校に入学したのをきっかけにふたりは会い、『父親でなく、大人同士として聞いてほしい』と、離婚までの顚末をすべて正直に打ち明けたそうです。そのうえで、『お父さんがすべて悪かった。今後、できる限り償いをしたい。お前だけでなくお母さんのことも、今でも愛している』と。それ以来、孫はみるみる大人になりました。夜遊びをやめ、勉強や部活に一生懸命取り組み始めたんです」
ある日、孫が家族全員をリビングに集め、「明日から、お父さんと暮らします」と突然言い放ったという。そして「お父さん、懺悔しまくっててかわいそうだから。くだらない女に引っかかっちゃったのも、優しすぎるからだよ。お母さんのことも、『いつまでも待っている』って。気が向いたら、よりを戻してあげて」と続けた。
「なに不自由なく育った娘より、紆余曲折を経た孫のほうが、ずっと成長した感じです。『あなたまで私を捨てるの!?』と泣く娘の背中を優しくさすりながら、『違う。私がいたらおじいちゃん、おばあちゃんが大変だし、お母さんもゆっくり休めないでしょ?ちょくちょく来るから安心して』と言っていました。そういえば夫の涙をはじめて見ましたね、あの時」
それから3年の月日が経った今、娘の元夫は、子どもを介して娘へラブコールを送っている。娘の表情も日に日に明るくなってきた。
「孫と『あのふたり、あと少しで元サヤに収まるんじゃない?』って見積もっているんです。それが実現したら、私にもようやく静かな老後が訪れるんでしょうね、きっと」
柔らかく微笑む節子さんは、こう締めくくった。
「娘の離婚によって、火の粉がたくさん降りかかってきたし、その火をまだ消しきれてはいないけど、芯の強い女性に育ちつつある孫を見ていると、火の粉だって人間の成長のための肥やしになるんだなあって。それを学べたことは、私の財産です」
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結婚や離婚は、当人同士が下した決断の結果である。親から自立し、新たな家庭を築いたのであれば、「自分たちで、事の始末を」と思う人は少なくないだろう。
でも子どもが努力の末に、最後の砦として親を頼ってきた時、「それでも手を差し伸べない」とは言い切れないのではないか。まだ大人が見守るべき年齢の孫がいたら、なおさらだ。
今は独身だが24歳になる息子を持つ筆者にとっても、3人が味わった「わが子の出戻り」による苦悩は決して他人事ではないテーマ。親業に終わりはないのだ。しかし、子や孫とともに成長し続けることができる。そう思えれば、親は幸せなのかもしれない。