「ノンフィクション」かと思わせる手法

先ず、物語全体を貫く空気感がとにかく、「緩い」。世界がこんなに戦争で大混乱を呈している中、日本という特殊な立ち位置の国の、「バーチャル平和」を呑気に描いていていいのか?  というのが最初の印象。もう少し別のアプローチが現れるのかと期待していたが、最初の空気感のまま映画は終わった。

画像はそこそこ美しくて飽きないし、日本人なら誰もが知ってる風景を、外国人ゆえの視点で撮影。2時間を飽きさせず、幸福な気持ちにさせてくれるのは、達者な映画職人らしい。しかし、これは決して「ドキュメンタリー」ではない。「ノンフィクション的に見えるリアルな撮影方法で、私たちを巧みに「理想郷のように作り直された東京」に引き込む、大人のファンタジー」に他ならない。

そもそも「平山」と言う主人公の名前が、小津安二郎の『東京物語』のオマージュ。

「今時よく見つけた!」と言いたくなるような、古いタイプのアパートに、ヴェンダースはパラダイスを重ねる。勿論その気持ちはわかるし、浅草や新宿ゴールデン街を愛する外国人観光客が喜びそうな雰囲気たっぷりだ。

この映画は「東京ノスタルジック・ツアー」といえる。ヴェンダースの本領発揮であるロード・ムービーそのもの。しかもある世代には「たまらない」音楽満載で、嬉しさ全開。

しかし、だ。例えば平山の毎日の始まりは、「起床してアパートのドアを開け、目の前の自動販売機で朝のコーヒーを飲む」という動作なのだが、あれだけのボロアパートにあって、「鍵を閉める」という動作がない。