わざわざ描いた真意を問わなくては

そしてかなり終盤、家出した姪っ子を迎えに来たその母、つまり平山の妹だか姉の乗っているのが運転手付きのリムジン。平山はどうやら金持ちの出で、彼があえて「トイレ清掃員」をしていることが明かされる。

「えっ、この生活って、つまり趣味??? それしか仕事がなく、身寄りもなく、孤独と不安に向き合い暮らす独居老人のリアルな現実とは程遠いでしょう?」と、批判的な気持ちがむくむくとこみあげる。しかし、である。

「ヴェンダースたるものが“その程度の大人のファンタジー”をわざわざ作り、社会的に居場所を失った中高年の留飲を下げて終わりにするのか?」と、改めて私は思った。貧困の切実さを彼が知らないわけがない、わざわざ「平山の実家は金持ち」と描いたその真意を問わなくてはと思うのだ。

最後、朝日を見ながらドライブする平山を見ていると、私たちの心は満ち足りる。故に「PERFECT DAYS」。地位も収入も捨て、修行僧のような生活をする平山の姿は確かに美しい。でも実際にそれを貫くには、多くの困難があるだろう。

年をとれば病気もする。治療費に困ったり、衰えた体力と孤独に悩むのが現実だろう。ホームレスに身を落とすことを恐れる人もいるだろう。そんな「ギリギリの生活」をパラダイスのように描いていいのか?