まさにパラダイスな日本の「便利さ」

「平山のアパートは果たしてオートロックなのであろうか」と言いたくなる役所の演技。おそらく役所広司は「ここで鍵を閉めないとおかしい」と監督に訴えたのではないか。でも監督は「そんなこといいから、迷わず自動販売機に向かって」と命じたのだろう。

自動販売機と言うものは、外国にはあまりないし、あっても故障が常。私も何回2ユーロを泥棒されたことか。しかし日本には自動販売機がそこら中にあり、必ず作動。時にはおまけまでついてくることや、コンビニが24時間開き、軽装の素人女子が夜中まで町を歩いている。

世界標準からしたらまさにパラダイスな日本の「便利さ」を、様々なシーンで監督は表現したかったのではないか。

家族のない初老の独身男でも、美味なコーヒーを味わい、マイカーで仕事に行ける事。「トイレ清掃員」という、収入の多くなさそうな仕事であっても、夕方には仕事が終わって銭湯に行き、駅構内のテレビ付き居酒屋で「馴染み」として歓待をうけながらビールを楽しめる。

古本屋で好きな本を買えるし、車はカセットレコーダー付きで、好きな曲を聴きながら移動可能。しかも彼の家は一見ボロアパートだが、なぜか2階に続くロフトハウスとなっており(日本の古いアパートでは99%ありえないと私は思う)、美人の姪が家出して頼ってくれば、泊めるスペースもある。

しかも2階は自分の蔵書やカセットテープで埋め尽くされ、趣味の園芸をするちょっとしたベランダまである…。